データで見るトライアスロン IRONMAN Geelong ②

前回レース全体に関する目標設定結果について振り返ったが、引き続き今回は各種目に対するデータをそれぞれ見てみたいと思う。
まずはスイムであるが、今回は特に特別な目標はなく、Paceとしては2:00[min/100m]、心拍数155bpmで40minのゴールを目指して泳いだ。スイムは他の種目と異なり、競技中にデータを見ることができないため、残念ながらいまのところ主観に頼って望むしかない。ここが最も不安なところではある。

結果からは、平均ペース2:02[min/100m]、平均心拍155bpmとかなり狙い通りのペースでゴールすることができたことが分かる。タイムが42:30minとなっているのも1900mのコースにおいて189mのロスが発生したことよるものだと言えるので特に問題ない。緑グラフの通りスタートはどうしてもペースを上げがちになるが、その後安定した負荷に落とし込めている。当日もうねりが結構あったため、ペースの増減はコースの方向で発生していることも明らかに分かる。ここからも負荷コントロールは問題なくできていると言える。
この結果からも、スイムはスキルさえ高めればタイムを向上できると言える。次回のレースに向けてはスイムのスキル向上に着目してみたい。
次に今回最も注目すべきバイクパートの結果をみてみたい。

前回述べたように内蔵爆弾の発生を押さえる目的ではバイクパートに着目してトレーニングを行ってきた。今回のターゲット出力は、
NP(標準化パワー)を192W(FTPの80%)
であった。
大会当日は平均気温12℃、常時6m/secが吹き荒れる中、定期的な突風に見舞われハンドルから手を離すと吹き飛ばされそうになるような悪天候であった。この環境の中では、同じ出力でも追い風時は42〜3km/hで走行できる中、向かい風時は25km/h前後まで落ち込むという非常にペースコントロールが難しい状況ではあった。そういう中、結果としては
NP = 197W
とかなり目標通りのコントロールを実現することができている。しかし、主観的には当日の暴風&雨の中でもかなり意識して修行僧のように200W前後に終始したつもりであったが、ピンクのグラフを見て見るとコースレイアウトの影響等で150W〜250Wの間をかなり増減していることが分かる。ここがまさに主観とデータとの大きな隔たりの原因になると考える。目標タイムに対しては8min程度の遅れとなったが、これは当日の天候とコースレイアウトによるものなので全く問題ないと考えるべきである。
このペースコントロールの結果として何が起こったかというと競技中に、
“お腹が空く”
という今までのレースでは考えられない感覚が起こった。つまり、内臓が・・・胃が活動しているということである。これはもしやということで、早速ゼリーを摂取する。おお!問題なく内蔵が受け付けているではないか?!さらにバイクスタートしてから2時間経ったころもまた空腹を感じている。この瞬間、正直 “きた〜!!”とまだレース中盤にも拘わらず早くもが達成感が浮かんできた。実はこの心の緩みが次の問題を発生させることになるのだが・・・(^^ゞ しかし、何よりも内蔵爆弾を発生させることなく、しかもどんどん体が補給を受け付けているというこの状況がうれしかった。
しかし、その一方このバイク中には大きな問題を感じていた。それは”尿意”である(笑)12℃という気温の中でも、血中Naを落とさないよう定期的にOS-1を摂取しつづけていたが、水分は殆ど取り込まれず排出を求めているようだ。しかし、バイク中のトイレはかなりタイム&ペースロスにもつながりあまり気が進まない。悪天候の中、これに絶えながら走り続けるのが、体力的より何よりつらい2時間ではあった。
そのまま何とかバイクパートを無事終了し、トランジションに入る。最後は仕上げのランパートになる。

ランは前回コメントした理論に基づいて、ターゲットペース5:15min/kmを設定。後半行けそうならペースアップという戦略で望んだ。上記のトータルでの結果をみると、
5:08min/km
とこれもプラン通りのように見えるが、しかし・・・内容的には欲を搔くことによりコントロールの失敗という反省点が残る結果であった。それはこちらを見るとよく分かる。

一番右の欄の1km毎のアベレージペースに注目して欲しい。スタートして8km付近までが、ターゲットペースを大幅に上回るオーバーペースである。ゆえにその後、徐々に失速していくことになり、ゴール前5kmは主観的なつらさもかなりぎりぎりの状態にまで追い込むことになってしまった。
ではこのオーバーペースの裏で何が起こっていたかを紐解くと非常に分かり易い。
バイク終了後のトランジションでトイレに駆け込み気持ち的にかなりスッキリ(笑)・・・そして走り出したところ、いつも以上にかなり足が軽く感じられていた。時計のペースを見ると4:30min/km台ではないか??
これは爆弾発動を避けられただけでなく、補給もうまくいっている結果なのではないか?
このままいけるかも?
という欲と根拠のない自信が心をよぎることになった。正直言って普段コンディションが良くても4:40min/kmで21kmなんて走れたことがないという事実がどこかに置き去りにされてしまったのである。しかも負荷の傾きが大きく変わるThreshold付近の10〜20[sec/km]の身体に及ぼす影響の差は著しく大きい。
しかしこの後、数kmこのペースを持続してもペースが落ちる気配がなかった(実はこれは追い風に入っていたのである・・・)。これはまさにFind My Zone??とさらに勘違いが強化されるメンタル状態になっていた。こうなるともうコントロールは聞かない。
そのつけは、追い風ゾーンから折り返したとたんにやってきた。全く進まない。どんどんペースが落ちる、しかも足が重い。ここからのゴールまでの残り10kmは完全に体と向き合う、がまんの勝負になった。データからも心拍は158bpm付近と一定にも拘わらず、ペースが4:56min/kmから5:53min/kmまで一方的に低下してしまっていることよりもこの状況が理解できるはずである。
これこそが数字は全くウソをつかない・・・やはり競技には奇跡はないという真実である
その結果、ギリギリまで出し切ることでゴールラインをなんとか切ることができたが、あと数kmランコースが長ければ、大失速に繋がっていたのは間違いない。
このように今回のレースはプランと実践共に非常にデータ的にも気づきの多いレースになった。心拍レーニングに注目してからは20年程度になるが、パワートレーニングを初めて約3年を経て自ら実証することができた感触である。普段主観によってレースに臨んでいるプロやエイジにとってもデータに基づくトレーニングとペースコントロールは間違いなく有効だという自信をもった。
この手のデータの価値を自分が実感するようになったのは、そもそもは22年前にチャレンジしていた鳥人間コンテストに向けたパイロットトレーニング方法を考える時に調査したNASAおよびMITがDAEDALUS神話を実現させたチャレンジにおける論文であり、その後レース業界に入ってからのレーシングカーに搭載されていたデータ分析システムやそれをリアルタイムにモニタリングしてフィードバックするテレメトリーシステムである。そういったものが今やハード、ソフト共に低価格化、簡素化されたやすくアマチュアが活用できるようになってきている。
日本のプロスポーツ界のデータトレーニング導入に向けた提言だけでなく、アマチュアがもっと楽しみながらタイプアップおよび健康向上につながる方法を提案する意味でも、今後も引き続き実践に基づくこの手の情報を発信していきたい。